疑念
【前回の話・キャラ設定】オスキツ国に降り立った旅人の話
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やっぱりここでもよく眠れなかったな……
ふらふらと階段を下りて酒場に入るとウィアラさんが私を呼び止める。
「チヤはお金が必要なのよね?しばらくお店を手伝ってね」
「はい」
酒場を出るとアンガスさんがいた。
「おはよ、旅人君」
「おはようございます」昨日の花束のお礼を言わないと…言葉を続けようとしたとき、私の顔を覗き込むアンガスさんからふわっと良い香りがした。
「顔色悪いよ?」笑顔のはずなのに何かを探るような目をしている。
「ただの旅疲れです」
「そう、ならバシアス浴場に行くと疲れが取れるから、行こ?」
手を掴まれ、慌てて振りほどいた。
「僕、ウィアラさんに頼まれものをしていて行かないと…」
「ふーん。
男同士、を強調されて肩がびくっと跳ねる。
「すみません」頭を下げ、駆け足でその場を去った。
「華奢で見てらんないよ」チヤの背中を見届けるアンガス。
*
アンガスさんから逃げるように市場に走り出した私は人とぶつかった。
「大丈夫ですか」
私の不注意なのにその人は優しい声だ。
「ごめんなさい」慌てて謝罪をする。
「旅人…あ!チヤ君だね。姉さんから聞いたよ」
先日、テレーゼさんに『近衛騎士隊に弟がいる』と言われたのを思い出した。
「はじめまして、アンテルムさん」
「うん、ところで慌ててどうしたの?」
「牧場に行きたくて」
あー、と頭をかきながら何かを考えているアンテルムさん。
「一緒に行こう、ウィアラさんは人遣いが荒いよね」ふっと笑う。
騎士の鎧と、かちっと決めたオールバックのせいで堅物の印象をもったが、笑うと可愛らしく見えた。
騎士の仕事を伺いながら歩き、しばらくしてアンテルムさん立ち止まる。
「ここが牧場だよ」
「ありがとうございます、助かりました」
「そうだ、今晩あたり夕飯を食べに
「いいんですか?嬉しいです」
王族で騎士隊の誘いを断るなんて大それたことはできない。祖国だったら不敬で捕えられてしまう。
「私は仕事で遅れるかもしれないけど弟は家にいるはずだから入ってて」
弟──アンガスさん。緊張がはしる…あの人は苦手だ。