ニヴの丘から見えるもの
夜のニヴの丘は、風が気持ちよく静寂につつまれている。だが向こうに見える岩の表情はどこか険しくみえた。
エルネアでは、ある程度の資金が貯まるまで滞在することを決めて、今日は名所を回った。
(その国に愛着を持つと離れるのが辛くなる…)
これまでは、旅先の名所をまわることなんてしなかった。
私をこのようにさせた一因はウィアラさん人遣いの荒さ。地図を見て場所を理解しないとお使いするにも迷子になるのだ。
本来ならアンガスさんにこの国を案内してもらうはずで、私が朝から外出している間に入れ違いになってしまった。
あとで城まで会いに行こう。
私は一人でもなんとかなることを伝えたかった。
*
「アンガスさん、案内役は不要ですと国王にお伝えいただけますか」
「まさか…もうこの国を出るのか?」
「いいえ、一人が慣れているので。案内役に責任を感じないでください」
「……」
王子には、ただの旅人にここまでする義務と義理はないのだ。偶然、知り合っただけで懇意にしてもらうのは気が引ける。
「それと騎兵のエントリーみました!頑張ってください。僕も剣の腕を試してみたかったな」
「キミもこの国で暮らしたらいいよ、そしたら騎士や…何者にもなれる」
(帰化…か)
「僕、同じ国に長く滞在できないんです」
「なぜ」
「理由は言えません」
「追われている身ならオレが守るよ」
この人は察しがいい…
「自分の身は自分で守れま─…」
言いかけて、座っていたはずのソファからアンガスさんの影が横切る。
── 一瞬、何が起こったかわからなかった。
「!」
私はアンガスさんに押し倒されている。