贈り物
ウィアラさんのお使いを兼ねて居室に行く機会が増えた。
「ハーブを取りに行くが一緒にどうだ?」
ちょうどアンテルムさんが部屋着を脱いで鎧に着替えるところだった。
「ひぁいっ、行きます」
男性の鍛えられた胸板が目に入ってしまい、声がうわずってしまった。
「兄貴、オレもついていくよ」
アンガスさんが含み笑いをした顔でこちらを見ている。
*
牧場に到着したものの、アンガスさんは農場管理の女性に愛想を振りまいているだけだった。
「アンガスは何しに来たんだよ…」
「オレの笑顔で皆のやる気がでるんだから別にいいだろ」
二人の間に入ることなく、黙々とハーブを摘んでいると──″ぐにゃり″。
いやな感触が手に残る。
ああ、臭い…『イムのふん』。
イムは外国でもみかけた、白くてぽよぽよした可愛い生き物だが『ふん』が強烈に臭いのだ。
「チヤ君、今から浴場に行くといい」
アンテルムさんの提案は嬉しいけど、日中に浴場へ行くと女バレしてしまう。どうしたらよいものか… 返答に困っていると、アンガスさんが口を開いた。
「兄貴はマツリさんところで新しい旅人の服を買ってくれない?オレはチヤと浴場に行ってくる」アンガスさんが私の背中をそっと押す。
*
「こうなると思ったよ、オレがいてよかったね」
「はい…助かりました」
アンガスさんは王族の権限なのか、浴場を貸し切りにしてくれた。
「後ろ向いてもいい?」
「ダメです」
「ちゃんと目をみてお礼をしてよ」返事を待たず振り返るアンガスさん。
「ところでさ、朝は兄貴の上半身みて興奮した?」
「いえ、驚いただけです」
「オレはどう?」
ほどよく鍛えられた身体が湯船からのぞかせ、私を湯船のふちにじりじりと追い詰める。
アンテルムさんとは違って細身だけども、彫刻のような綺麗な筋肉美。享楽的なこの人はその身体で何人の女性を抱いたのか。
「チヤ…」アンガスさんの手が私の肩に伸びる。
「た、助けられました、感謝していますっ」アンガスさんの胸元を押し返す。
「はは、顔が真っ赤」
*
アンテルムさんが用意してくれた赤い旅人の服に袖を通す。
「似合うじゃないか」/「似合うね」
二人に褒められて少し照れくさい。
「ありがとうございます。この服の代金は少し待ってもらえませんか」
「え、いいよ。兄貴は騎士だから金あるし」
アンテルムさんの財布事情になぜか口をだすアンガスさん。
「いえ、そういうわけには…」
「アンガスの言う通りだ、気にしないでいい」
二人がそこまで言うなら絶対に受け取らないんだろう。私は改めて二人に頭を下げた。
贈り物、これで二つ目…か。