涙
久しぶりの外は眩しくて眩暈がする。
アンテルムさんがもうすぐ居室を出るというので、オスキツ国王たちとハーブ摘みに出掛けることにした。
(最後の思い出を私にください)
家まで迎えに来てくれたのはヴィクトリア王妃とテレーゼ王太子。しかもできたての差し入れを持って。
「ちゃんとご飯を食べてね。ずっと外に出てなかったでしょ?」
「そうよ、うちの息子たちを見習って大きくなりなさい」
(私にお姉さんやお母さんがいたらこんな感じなのかな…)
2人が差し入れをくれたのは何も今日だけではない。アンガスさんが気を利かせて2人に話してくれていたみたい。私が外に出なくなってから何度か様子を見に来てくれたのだ。
そのたびにドアから顔を覗かせて食事を受け取るだけの対応をし、改めて非礼を詫びた。
「今までごめんなさい…」
優しさに触れれば触れるほど、性別を偽って…嘘をついて接することに胸が苦しくなってくる。
*
農場につくと皆が勢ぞろいしていた。
あの国王でさえ、無邪気にハーブを摘んでいる。
「チヤ君、こっちにたくさん実がなっているぞ」オスキツ国王が私たちを呼ぶ。
「アンガスはもっと丁寧に、真面目にやれ」
「兄貴は細かすぎるんだよ」
久しぶりに二人の顔を見る。
私に気が付いた2人は一瞬、驚いた顔をしたが何も言わなかった。
ティムさんは「チヤ君、久しぶりだね」と微笑みかけて、蝶に構っている。
なんてことない、王族の…家族の日常。
温かさに触れて、急に自分がいてはいけない感覚に陥る。
私はこの優しい人たちを騙す異質な存在。
──『少しでも罪悪感があるならこれから身の振り方を考えるんだ』
アンテルムさんの冷たい声が頭をよぎる。
これ以上、仲良くなってはいけない。
優しさに甘えてはいけない。
辛くなる前に旅に出なきゃ…
ハーブを摘む手にぽたぽたと水が落ちる。
──雨?
違う、涙だ。
感情が高ぶるなんてどれくらいぶりだろう。親と死別し、故郷を追われたときも涙は出なかった。
親の死に目に会えなかったから実感もなかったし、今日まで必死に旅をしてきた。泣くことなんて──。
「チヤ君?」
国王から名前を呼ばれても涙は止まらなかった。
「ごめんなさい!ごめんなさいっ」
もはや何に対して許しを請うているのかもわからなかった。
涙が堰を切ったように流れ出す。