夢現
なんだろ…すごく安らぐ…
チヤは心地よい陽だまりの中にいる気分だった。
それにエキゾチックでスパイシーな独特の香りがする。最初は苦手だったけど、いつの間にか好きになっていた香り。これっていつも近くで感じていた…アンガスさんが愛用している香水。
眩しい光の向こうから、アンガスさんが笑顔で歩いてくる。
私の目の前に立って…
あれ…アンガスさん?
表情が見えない…。
アンガスさんだと思ったその『影』は突然、激しい口づけをする。
*
えっ!!
ぱちりと、目を開ける。
驚いた…生々しい夢。
まだ心臓がドキドキしている。
姿勢を変えようと、寝がえりを打つとアンガスさんの綺麗な寝顔があった。
(なんで!?)
「ん…チヤ、起きた?おはよ」
アンガスさんが目をこすりながら身体を起こすと、夢の中で感じた香水がふわっとほのかに香った。
そうか、夢と現実がごっちゃになっていたんだ。
じゃあ、あの激しいキスは…夢、それとも現実?
なんだかとてもリアルに感じたけど…
アンガスさんとキスをしたことを想像して顔が熱くなった。
いや…それよりも、この状況は?
なぜベッドで一緒に寝ていたの?
「あっ、あの…」
何から聞けばいいのか…混乱する。
「今から説明するよ」
アンガスさんは、水を入れたコップを差し出してくれた。
ベッドから身体を起こして、水を飲んで落ち着く。
「チヤは昨日、収穫祭で酔っ払ったんだよ」
そうか、アンテルムさんの飲んでたお酒を間違えて手にとってしまったんだ。とんだ失態だ。
「兄貴が新居まで運んでくれたけど、介抱したのはオレね」
『介抱』…ふと、自分の衣服に目をやると新しいシャツに着替えられていた。
(アンガスさんに裸を見られたの?)
裸を見たなら憎まれ口くらいたたくかと思ったけど、何も言わない。
彼なりの優しかな…
いや、酔いつぶれた女の裸などアンガスさんからしたら価値のないものなんだろう。
(私もいちいち騒ぎ立てるのはやめよう…。)
「介抱、ありがとうございました」
「うん、よく眠れた?」
「はい、とても」
これは嘘じゃなかった。酔っていたとはいえ、朝まで眠れたのは旅をして初めてだった。窓の外はもう明るい。
「よかった。オレも人のことは言えないけど、次はお酒に気をつけて。じゃ、もう帰るから」
あれ、距離のとり方に違和感がある…?
「アンガスさん、元気ありませんね」
アンガスさんが悲しそうな表情をする。
(我慢するのがつらいんだよ)
聞こえるか聞こえないくらいの細い声でチヤには届かない。
「……?」
「じゃ、今日はゆっくり休んで。また明日」