アンガスさんの試合
(これじゃよく見えないな…)
練兵場はアンガスさんの応援に来た女の子たちで溢れていた。
「やぁ、チヤ君」振り返るとティムさんが立っていた。
「ティムさん、こんにちは」
「アンガスの応援だね、こちらへどうぞ」
親族が応援する席に案内してくれた。私が女だってわかっていたらファンの子の視線が痛そうな待遇だ。
前から気になっていたことを尋ねる。
「ティムさんはどうして騎士を目指しているんですか」
「アンガスのためだよ。僕がトーナメントの対極にいることで戦いやすくするためだよ、ちょっとずるいけどね」くつくつと笑う。
「??」
何かの作戦だろうか、理解が追い付かない。
「僕は次の試合で負けるつもりだけど、アンガスは大丈夫だと思う。騎士になれるよ、ほら見てごらん」
会場のほうを見てみるとわっと声援があがる。アンガスさんの入場だ。
真剣な顔にどきりとした。いつの間にか立派な大剣を手に入れていて、アンテルムさんよりも粗削りだけども相手の隙をみて確実にポイントを稼いでいる。
「そこまで!!」
アンガスさんの勝利だった。アンガスさんは、対戦相手の女性の手をとり立ち上がらせ、土埃を払ってあげていた。立ち振る舞いが王子そのものだ。
アンガスさんが会場を出ると女の子たちが駆け寄り思い思いに言葉をかけている。
チラッと目が合った気がするが、あの輪の中に入る勇気はない。心の中で(おめでとうございます)とつぶやいた。
「アンガスもやるねぇ。そうだ、チヤ君…せっかくだから探索に行かない?」