国民になる
オスキツ国王が口を開く。
「うむ、ティムの言う通りだな。チヤ君は国家機密を持ってるわけでもなさそうだし、グァバメキアは現在も鎖国中で、1人のためにわざわざ戦士を使って追ってくるとは考えにくいだろう」
「ずっと追われている感覚があったのは怖かったでしょう?もう安心していいのよ」とそっと背中をさするヴィクトリア王妃。
「そうだな、チヤ君がよければこの国に残りなさい」
国王と王妃は皆を騙してきた人間を移住するように勧めてきた。予想外の展開で、唖然としてしまう。この人たちはどこまでも優しい。
「それと、この国の武術職を舐めてもらっては困る」アンテルムさんの低い声。
「そうよ、アンテルムの腕は確かよ」テレーゼ王太子がアンテルムさんの言葉に続く。
騎士隊長となるアンテルムさんの武術の腕、さらに魔物が頻繁に現れるこの国は皆が武器を扱える。学舎に通う学生でさえも。
私だって自分の身を守れるほどの実力はあるし、相手と刺し違えるつもりで生きてきた。
(もう、故郷に怯えて生きなくてもいいの?)
アンガスさんが、近づいて私の腕を掴む。でも言葉はなかった。
(何も言ってくれない…)
アンガスさんの言葉を期待している自分に気づいてしまった。
ティムさんがアンガスさんの手を制するようにそっと触れ、私たちは離れた。
「決まったね。チヤちゃんは今日からエルネア国民だよ」ティムさんの全てを包み込む優しい声。
「はい」
気が付けば私は返事をしていた。
「まぁ!もうひとり、娘ができたみたいで嬉しいわ」
明るいヴィクトリアさんの一言でそれまでの重々しい空気が消える。
「チヤ君、話してくれてありがとう。これからも変わらない付き合いをしよう。アンテルム、もう遅いからチヤさんを家まで送って」
「チヤはオレが送る」とアンガスさんがオスキツ国王に申し出た。
「いや、話したいことがあるからアンガスは残っていなさい」
「……。わかったよ、父さん」