【アンガス視点】チヤへの想い
【アンガス視点】
年の瀬のハーブ摘みに現れたチヤは、食事がまともに喉を通らなかったのだろう。出会ったころのガラス細工のような脆く儚い状態に戻っていた。
チヤに会ったのは星の日以来だ。
話したいことはたくさんあったが、今は皆がいる手前どうにもできない。
チヤは、父さんと母さんと行動していたが突然、空気が変わった。チヤが泣いていたのだ。
居室に連れて行くとチヤはこれまで
いつも何かに怯えている様子なのも、しっかり眠れず陽射しを眩しそうにしていたことも…すべてに納得がいく。
「今まで、騙してごめんなさい。私はすぐにでもエルネアを出ます」と聞きたくなかった言葉をチヤはあっさりと口にする。
チヤのことを最初に引き止めたのはティム兄さんだった。
ティム兄さんの言葉を皮切りに、父と母、姉…そしてアンテルムがチヤに留まるよう説得する。
オレは ──
彼女の手を取るが言葉に詰まる。
オレは国王でもなければ、ティム兄さんのように発した言葉が安らぎを与えるような力はない。そしてアンテルムのように騎士隊長になる実力もまだない。
「騎士になったらこの国に残ってよ」という願いは伝えたが、彼女の返事は聞いていない。
オレはチヤが女だと勝手に暴き、この国に残ってよ、キスさせてよ、ドレスを着てよ…と、一方的な言葉を投げていた。オレの言葉が、チヤに涙を流すほど追い詰めたのか。
(すまない…)
今すぐ詫たいが父さんがチヤと二人にさせてくれなかった。
オレは、アンテルムに送られて行くチヤの背中を見送る。
「アンガスはチヤ君が女だとわかって、家を借りたいと私に頼んだのか?」
「そうだよ」
「まさかチヤ君と…」
「父さんが考えてるようなことは何もないよ、何もしてない。チヤは今日まで、旅をの理由を話してくれなかった。いつも心ここにあらずで、オレが…いや、エルネアが彼女にとって安らぐ場所にならないか考えてた」
「その心意気は素晴らしいが…今まで
── 好き
女からよく向けられる言葉だ。その意味も重さもわからない。
ただオレは、チヤの心がほしいと執着しているだけだ。手に入らないものを欲しがる子供のような…それを世間では"好き"というのか?
「言い方を変えよう。チヤ君が移住することが決まった以上いずれ家庭を持つだろう。チヤ君の隣にいるのは他の男でもいいのかと」
想像したら胸がズキリと痛んだ。掻き毟りたくなるような経験したことのない痛み。
「嫌だ…」
「わかっているだろ、王族と旅人あがりの国民じゃ結婚はできない。それなら目指すべき道はひとつだ。それまで、関係性を急がないように」
そうだ、ただ騎士になっただけでは駄目だ。オレは騎士隊長になって家を出るしかない。
「オレは騎士隊長になるつもりだよ、父さん。話はもういい?チヤに会いたいんだけど。今なら二人に追いつくし」
オスキツ国王は「関係性を急がないようにと言ったそばからそれかと」と笑った。息子の成長を見守る優しい親の目だった。