エナの子コンテスト
アンガスさんに手をひかれ王立闘技場に入ると、すでに多くの人が席を埋めていた。
周囲の声が大きく、アンガスさんが耳元で話しかける。
「チヤ、終わったら温室で待ち合わせよう。それまで誰にも捕まらないで」
ふんわりとした香水のにおいが鼻をくすぐり鼓動が早くなる。
エナの子コンテストは、ティムさん、アンテルムさん、そしてアンガスさんの王族である三人が候補に選ばれていた。
王族である彼らと私では住む世界が違い過ぎる。華やかで憧れの的で…きっと彼らに愛される女性は幸せなんだろう。
*
次は女性候補者の紹介。私の前にいた数人が堂々と入場して行く。
最後に私…こんなにたくさんの人前にでるなんて経験はなく、足がすくんで動かない。
遠くで神官が『出場される方は以上ですか?』と確認する。
「ちょっと待って」アンガスさんの声。
足音が近づいてきて私の前で止まる。「チヤ、大丈夫?」
闘技場のそでで、動けなくなっていた私の手を優しく取る。
街中のちょっとした移動でも、皆がみていないところで何度こうして手をつないでもらったことか。温かいぬくもりに安心して手の震えが止まる。
そのまま手を引かれエスコートされるように闘技場の中心に入ると会場がざわつく。私は女性たちの視線を強く感じて俯いてしまう。
「チヤはすごく綺麗だ。堂々としていて」
アンガスさんがつないだ手を離して神官に耳打ちをする。
「最後はアンガス王子のご友人です、一言どうぞ」
王子の名前を借りてしまった…王族の名に泥を塗ることだけは避けなければ。
「よろしくお願いします」顔をあげて、声を絞り出した。私にとって精一杯の笑顔…いや、泣き笑いのような複雑な顔をしていたと思う。
会場がどよめきが起こる。
もうなんて思われてもいいや…早く終わって!!私の願いはそれだけだった。
*
エナの子に選ばれたのはアンガス王子。
そして女性は…私?…嘘でしょう…
神官がエナの子に選ばれた私たちは、収穫祭の祈りを捧げる大役を担うことを説明した。そんな話はアンガスさんから聞いていない…。
エナの子コンテストも終わり、候補者たちが会場の席に向かって一礼をする。
私は何人かの男性から名前を尋ねられたが、振り返らずに駆け足で闘技場を後にした。