【アンガス視点】歯車
【アンガス視点】
父さんとの話を切り上げ、アンテルムとチヤを追いかける。
チヤを思い詰めさせたことを謝りたい…
城下通りから噴水広場をつなぐ階段を降りる途中で足が止まった。
アンテルムとチヤが噴水の前で向き合う形になっている。兄貴がチヤに向ける真剣な眼差しに、声をかけてはならない空気を察した。
かろうじて聞こえてきた言葉は兄貴の「私との関係を考えて欲しい」とチヤの「はい」という返事。
どう考えても男女関係の話だ。
チヤは兄貴と恋仲になることを望んだのか?いつからそんな関係に…
視界がぼやけ、喉の奥が熱くなる。
はは、こんなことで…泣きそうになるなんて情けないな。これまで女を泣かせてきた因果応報だ…
気がついたら二人は噴水の前からいなくなっていた。
背後から女の声が聞こえる。
「アンガスの友人さんは、お兄さんに取られたみたいね。あたし、最初からみてたけどあの二人は付き合うことになったみたいよ」
そこに立っていたのは昔から身体だけの割り切った関係の女で、もっともチヤと出会ってからは存在を忘れていたくらいだ。
アンテルムとチヤは付き合うことになった、か。改めて現実を突きつけられ胸が締め付けられる。
「ねぇ、アンガス。あんたはアンテルムに勝てないし、旅人と付き合うこともできない。身近なところで手を打ちなさいよ」
兄貴に勝てないだと…この女はさっきからムカつくことを言う。
*
オレはどんな顔をして家に帰ればいいかわからなかった。父さんに騎士隊長になる意思を伝え、チヤに謝りたいと思ったそばからこれだ…どうすればいいんだ…
そのまま女の家に泊まり、久しぶりに女を抱いた。
というより、女がオレのものを咥え自分のそこにあてがった独りよがりの行為だ。「勝手にしろよ」と冷たく言い放つが女は気にしない。
目を瞑りチヤを犯すことを思い浮かべた。女への最大の侮辱。
「…ッ、くっ…チヤ…」
「あっ…アンガス…!」
女は果てて満足したのか、オレに腕枕を要求する。こうなると罪悪感もなにもない。享楽的で何が悪いんだ。
*
【チヤ視点】
アンテルムさんは私を家まで送ってくれた。
ダイニングテーブルの椅子に腰をかけて窓を眺める。さっきまで月明かりが見えていたのにいつの間にか厚い雲が広がって雪が降り始めていた。
「王族と旅人は結婚できない、か」
外の天気のように心が重たい。
今の気持ちを口に出すと後にはひけないし、言ったところでどうにもならないことはわかってしまった。
水瓶から水を汲んで口に含み、言葉と一緒に飲み込んだ。まずはエルネア国民としてしっかりしなきゃ。