新年
早朝にドアをノックする音が聞こえた。
「チヤちゃん、新年おめでとう」
「あ、ティムさん!新年…おめでとうございます」
「あれ…アンガスは一緒じゃないの?」
「いえ、昨晩はアンテルムさんに送られてから会ってません」
「そっか…あ、一緒に玉座の間にいこう?」
ティムさんに連れられた玉座の間ではそれぞれの職業の長と王族が新年の誓いを立てていた。アンテルムさんは今年から騎士隊長としての参加のようだ。
新年の誓いが終わると私はオスキツ国王と王妃に挨拶をした。
オスキツ国王がぽんと手のひらを叩く。
「そういえばチヤ君、畑には行ってみたかい?」
「畑ですか?」
「アンガス、案内しなさい」
早朝から行事にかりだされ眠そうなアンガスさんがこちらを向く。
「わかったよ」
アンガスさんは騎士になっていて、鎧を着ていた。
「国民になると畑がもらえるから野菜を育てるといいよ、行こう」
*
アンガスさんの『行こう』で久しぶりに手をつないでくれると期待する自分。けど、私とアンガスさんの間には壁ができたように距離を保って歩いていた。
(そうね、もう何もわからない旅人じゃないもの。自分で歩かなきゃ…)
「アンガスさん、入隊…おめでとうございます」
「ん…騎兵じゃ城下に住めないわ、欲しいものは取られるわで散々。この鎧も重いだけだし」気だるそうなアンガスさんの横顔。
あれ…あまり嬉しくなさそう。騎士になることも、私の案内もアンガスさんの気まぐれだったのかな、ただの国民になった私に興味がなくなったのかもしれない。胸が苦しくなる。
「その姿、素敵なのに残念です」私は思ったことをそのまま口にしていた。アンガスさんは驚いた顔をしていたが畑に着くまで私たちは無言で歩いた。
*
「畑はここだよ」
「ありがとうございます」
しゃがみ込んで、土を触ってみる。質の良い土だとわかった。ここで野菜を育てたら美味しいものができるんだろうな、それに、土いじりは他のことを忘れるのに都合がよさそう。
背後からアンガスさんの声が聞こえる。
「その服は…アンテルムからもらったから着替えないのか?」
この服?旅人の衣装のことかな。ミアラさんからもらった国民服はスカートなので着るには気恥ずかしい。
「?…動きやすくて気に入ってるんです」
「そう…」
土の感触を確かめ、立ち上がると目眩がした。
「危なっ」
アンガスさんが咄嗟に私の腰を支える。
顔が近い。
「チヤ…」アンガスさんの甘い声が頭を痺れさせる。
変に意識しちゃだめ。自分を苦しめる…
「すみません」すぐに身体を離した。
「あの…野菜、できたら作って持っていきますね」
「ああ、楽しみにしてる」