初めてのデート
「おはよう、チヤ 今朝も綺麗だよ♪ふたり一緒だと、この素敵な陽気が何倍も素晴らしく感じられる」
「アンガスさん、おはようございます。そのセリフ…噛まないんですか?」
「え…チヤ、こんな状況なのに冷静だね」
ここが浴場だということを思い出し、慌てて身体を隠すように湯船に深く浸かる。
「あ、あ…あのもう少しであがります。お話はそれからでいいですか?」
「前にも一緒に入ったからいいでしょ?チヤってばイムふんを掴んで…」
「わー!わかりました」恥ずかしいことを思い出させられてのぼせそうになる。
(あ、さっきまで湯気で気が付かなかったけど…)
「アンガスさん、髪色が綺麗ですね」
「うん、新色。どうかな?」
「王子様みたいです」── って思わずとんちんかんなことを口走ってしまった。
「ぷはっ、元王子に向かって面白いことを言うね。ん、そうだなぁ…あえて言うなら、今はチヤ専用の王子だよ」
「は、はい…」
「オレの可愛いお姫様、明日デートしようか」
*
私はのぼせた身体を冷ましに酒場にきた。
「ウィアラさん、デートってどうすればいいんでしょうか?」
「アンガスならすべてお任せでいいのよ」
「そんなものでしょうか」
「むしろ、喜んでリードするわよ」
*
次の日、待ち合わせに現れたのは衣装ごと王子様だった。
「お待たせ、チヤ」
「waaa…眩しい」
「え、おかしい?」
おかしいわけはない。むしろ似合いすぎて…というか隣で歩く私が不釣り合いに思えてくる。
「いいえ、アンガスさんはおかしくないです。すごく似合います。ですが…私なんかでよいのでしょうか華やかな女性のほうが似合い──」
アンガスさんは「しー」と人差し指を口にあててウィンクをする。
「オレはチヤはじゃなきゃダメ」
もう何も言うまい。頑張って!私の心臓…
*
初めてのデートは『神殿のアトリウム』
「いい匂い…」
「この時期だとウィーリアの花とパロンの花だよ」
奏士を経験したことがあるというアンガスさんの説明。本当に花が似合う人……。
「匂いで過去の記憶が呼び覚まされるのをプルースト効果っていうんです。春になって神殿の前を通れば、私はこうしてアンガスさんとデートしたことを思い出せるんですね」
「ううん、春だけじゃないよ。チヤはオレとおそろいの香水をつけてずっとオレを想って欲しいし、雨の日もデートして…森も丘も、すべての場所でオレと思い出を残すんだ」
「アンガスさんって…」
「うん、欲深い男だよ」