共犯者
アイリさまよりメリーバッドエンドの続きを頂きました!(それに合わせてイラストを描かせて頂きました!)仄暗く、闇深く、でも彼らにとっては幸せなお話です。
アンガスと結婚するため、しぶしぶチヤとの同居を認めた本妻だったが、日に日に彼を独占したいという想いが大きくなっていた。
(チヤさえいなくなれば、彼も私を見てくれるはず…)
思いつめた本妻は、チヤを亡き者にするための暗殺計画を企てる。
しかし本妻の行動に目を光らせていたアンガスは、事前にこの情報を察知していた。
本当はチヤにこそふさわしい「アンガス王子の妻」という肩書きを持つだけでは飽き足らず、オレからチヤを奪おうとするなんて...
その後アンガスは、毎日 本妻とお茶の時間を持つようになった。
「今まで君を蔑ろにして悪かった。ようやくオレも目が覚めたんだ。これからは君との時間も大切にしたい。
そうそう、珍しい紅茶が手に入ったから今日はオレが入れてあげるよ」
打って変わったようなアンガスの優しい態度に喜びを覚える本妻。
チヤへの優越感と彼女の嫉妬に歪む顔が見たいと思い、いったん暗殺計画は取り止めることに。
── アンガスが彼女にふるまっていた紅茶。
その中には闇市場で密かに流通している毒薬が入っていた。
この毒は穏やかに作用し、徐々に身体の自由を奪っていく。
最初は疲れやすいくらいの軽い症状が続くが、徐々に手足がしびれ立つこともままならくなり、最後は声も出せず、ついには呼吸が止まって死に至る。
この毒の恐ろしさは、微量の使用であれば調べても検知されないところだ。医者にかかっても原因不明の体調不良と診断されてしまう。
彼とのお茶の時間を楽しんでいた本妻は、徐々に伏せる日が多くなっていった。
献身的に妻を看病するアンガスの姿に、国民は妻想いの良い夫だと噂するようになる。
「チヤ、寂しい思いをさせてごめんね。オレにはチヤだけだから、もう少しだけ良い子で待ってて」
忙しい合間を縫って、愛するチヤに会いにきたアンガスは優しく微笑む。
「ねぇ、アンガスさん...奥様の調子が悪いってぼうやから聞いたんだけど本当?」
「チヤが気にすることはないよ。あと...オレの妻はチヤだけだ!チヤの口からそんな言葉聞きたくない!!」
表情を一変させて激高するアンガスに、何か良くないことが起こっていると気付きながらもチヤはそれ以上問えなかった。
ついに本妻は声も出せなくなった。
医者からは今晩が峠だろうという宣告がなされる。
2人きりになった部屋で、いつものように女に薬を飲ませながら突然アンガスは笑い出す。
「ねえ、毒の入った紅茶や薬はおいしかった?
自分が暗殺される側にまわった気分はどう?
お前がころっとだまされてくれたおかげで、オレは世間から妻想いの良い夫の評価が得られた。後はお前の死を嘆く演技さえすれば、オレとチヤの邪魔をするものはいない!」
驚愕に目をみはる本妻。
だが助けを呼ぼうにも声が出ない。
絶望の中、本妻は静かに息を引き取った。
妻の死を嘆き悲しむアンガスに、ますます世間の同情は集まり、彼を疑うものは誰もいない。
葬儀の後、アンガスは晴れやかな表情でチヤのもとへと向かう。
「ようやくオレたちの邪魔をするものがいなくなった。今まで不自由な思いをさせてごめん。これからは家の中ならチヤの好きにしていいよ。
ただし、オレから逃げようなんて考えるのなら その時は...分かってるよね?」
チヤは彼の言葉が理解できずに戸惑う。
「そうだ。もう少し落ち着いたらあの子にもチヤを「お母さん」と呼ばせようか。
前にチヤがそう望んでただろう?あの子はチヤに懐いてるし、なんたってオレたちふたりの息子だ。良い共犯者になってくれるさ」
笑顔で話すアンガスを見ながら、導き出されたひとつの答えにチヤは震えが止まらない。
「何を...したの....」
「何って、身の程知らずにもオレたちを引き裂こうとした害虫を排除しただけ。オレからチヤを奪おうとするのなら、誰であろうと容赦しない」
「チヤ...愛してるよ...チヤの存在だけがオレの生きる意味だ」
アンガスはとろけるような笑顔でチヤに口付ける。
彼をここまで追い込んでしまったのは自分だ。
彼や本妻への懺悔の気持ちだって本心のはず。
それなのに、心の奥底から湧き上がるあふれんばかりの歓喜はなんなのだろう。
チヤはようやく彼を独占できるという仄暗い喜びを感じる自分自身に愕然とする。
「チヤ?
どうして黙ってるの...?チヤだけはオレを否定しないで」
不安げに瞳を揺らす迷子の子どものようなアンガス。
こんな方法は間違っていると叫ぶ良心に蓋をしながら、チヤは彼の共犯者となる覚悟を決める。
ふたりを待ち受けるのが破滅なのだとしても、彼の側にいられるのならば後悔なんてしない。
「アンガスさん、私もあなたを愛しています。この先何が起ころうとも、最期まであなたの側であなただけを愛し続けます」