会いたかった人は
──トントンと部屋のノックが聞こえた。
アンガス「はいはい。誰?」
アンガスが扉をあけると、そこにはティムが立っていた。
スマートな体格に、手入れが行き届いている滑らかな長い黒髪。
ティム「ティナちゃん…ごめんね。僕に会おうとして怪我を負ったって聞いたけど」
ティナ「いえ!!わたくしが悪いんです」
アンガス「いーや、ティムが悪い。こんな可愛い子は男から会いに行くもんだろ。って、やべ!オレも女の子と約束があったんだわ」
ティム「アンガス君、そろそろちゃんと家に帰らないと父上が……」
アンガス「わかってるって。どうせ来年は入隊するんだし、今のうち遊ばないとな。ティムもだろ?じゃあな」
そう言ってばたんと扉をしめる。
*
アンガスと入れ替わったティムが、ベッド横の椅子に腰掛ける。
ティナ「あの入隊ってなんですか?」
この国には3つの武術組織が存在し、そのうちのローゼル近衛騎士隊にティムとアンガスが入隊することを説明した。
ティム「僕が入隊するのは……まぁ成り行きで」
一瞬、表情に陰りが見えた気がするがティナは黙って話を聞いた。
ティム「アンガス君が入隊したのは意外だけども、おおかたラムサラでも食べて力試しをしてみたくなったのでしょう」
ティナ「アーちゃんとティム様の騎士姿……きっとお似合いなんでしょうね」
ティム「いやいや、アンテルム君には負けるよ。彼は本物の騎士だよ」
──アンテルム。名前を聞いて頭の中がチクリとうずく。思い出したくても思い出せない彼の顔と……あれ……わたくし何か忘れている?
ティム「それで、ティナちゃんは何でエルネアに来たのかな?」
ティナ「ティム様からのお手紙を見て……」
がさごそとカバンを漁ると手紙がなかった。きっと森に落としたのだ。
ティム「僕はデューイ君宛に鉱物調査の依頼の手紙しか出していないけど、それがどうしたの?」
ティナ「え……手紙で外国のお話をしてくださったのは、ティム様ではなかったのですか?」
ティム「それは僕ではないよ」
手紙を失くしたこともそうだが、何よりあの手紙はティムが書いたものではないことに言葉では言い表せないほどのショックをうける。
確かにあの手紙は無記名だった。
しかし『外国の話=ティム』その法則がティナの中に出来ていたのだ。ならば、あの手紙を書いたのは誰だというのか。
ティナ「わたくし、混乱してしまいました。少し休んでもよろしいでしょうか」
ティム「そうしようか、ゆっくり休んで」
ティムは椅子から立ち上がり、西日が強くなった窓のカーテンを閉める。
ティム「手紙とティナちゃんの気持ちも見つかるといいね」
ティナ「……」
ティムの言葉が、目を