あなたの名前を
エルネア城を出たところで、ティナは質問を投げかけた。
ティナ「ティム様……盗み聞きのような真似をしてしまいごめんなさい。ご結婚されるのですか?」
ティム「そうだね、騎士になったのもその流れなんだけど……結婚自体は僕の本位ではないんだ。大人にはいろいろあるからね。秘密だよ?」
ティナ「そうなんですね……」
ティム「だから、弟たちには自由に結婚してほしいんだけども。ティナちゃんは意中の方はいるのかな?」
──ティム様、と言いかけたところで言葉を飲み込んだ。これから、自分とは違う女性と結婚する人に想いを伝えても困らせる。何より手紙の差出人が違うとなるとティムに対しての恋心が正しいのかもわからない複雑な心境だったのだ。
ティナ「いいえ、おりません」
???「ティム兄さん、こんなところでどうしたんだ」
ティム「アンテルム君、ずいぶん遅かったね。ほら、ティナちゃんだよ。君に会いに来たんだ。懐かしいでしょ?」
ティナ「え、騎士様が……」
アンテルム「……ティナさん、黙っててすまない」
ティム「おや?話すことがあるみたいだね。なら僕はここで失礼するよ。アンテルム君、部屋まで送ってあげて」
アンテルム「わかった」
*
妙な沈黙が二人の間を流れる。
話を切り出したのはティナからだった。
ティナ「ずっと小さい頃からお名前を呼べなくて、ごめんなさい。あの……騎士様……いいえ、アンテルム様」
アンテルムは想い焦がれていたティナに、初めて名前を呼ばれ胸が高鳴る。
ティナ「──それと、森の中で助けてくださってありがとうございます」
アンテルム「仕事のうちだ、気にすることはない」
ティナ「アーちゃんもアンテルム様も、小さい頃とずいぶん印象が変わって気が付きませんでした。騎士姿、とても似合います」
アンテルム「ああ」
──騎士姿が似合う?それは、キミのために頑張ったから。