アンガスのいたずら
翌朝、ティナはバシアス浴場で温まっていた。季節の変わり目は風邪を引きやすい。
???「ティナちゃん」
名前を呼ばれて後ろを振り向くと、アンガス王子が立っていた。人目をさけて早朝にきたのに鉢合わせて思わず慌てる。
ティナ「ごめんなさい、今から出ます」
アンガス「えーアンテルムには生足を見せられるのにオレには見せてくれないの?」
ティナ「!アンテルム様は治療してくださっただけで他意はありませんわ……」
アンガス「ふーん……アンテルムには絶対的な信頼をしてるんだね、むかつく。それより、キミが探してたのはこれでしょ?」
アンガスが頭の上でひらひらしているのは紛れもなく、森で落とした手紙。
ティナ「こんな濡れる場所で!返してください!」
アンガス「やだね、オレが書いた手紙はオレがどうしようか勝手だろ」
オレが書いたと言えばティナはどんな反応をするのか。単純な興味で悪戯心だった。
ティナ「うそ……」
顔を真っ赤にしたティナを見てアンガスは確信した。ティナは、ティムでもなく
アンガス「そんなに驚くこと?」
ティナ「アーちゃんは、あのような甘い言葉を誰にでも言っているでのすか?」
普段、どんな文章を書いているんだ、アンテルム。アンガスは面白くなり話を合わせることにした。
アンガス「いや、あの言葉はティナにだけだよ。他の女には本気になったりしない」
ティナ「……」
アンガス「ね、手紙を見てエルネアに来たってことはオレと”そうなる”つもりでいるんでしょ?」
ティナはジリジリと近づくアンガスの鋭い眼差しに胸が震えた。まるで、魔獣が獲物を狙う時のようなものだったからだ。
ティナ「そうなるってどういうことですか……?」
アンガス「男女の仲だよ」
箱入り娘のティナだって男女の仲がどういうことかはわかっている。
ティナ「アンテルム様はそんなことを言いません!」
アンガス「えー!手紙を書いたのアンテルムだってわかってるじゃん」
ティナ「いえ、今わかりました。手紙には甘い言葉が綴られていましたが、とても一途な表現をしておりました」
アンガス「なんだよそれ、つまんない」
ティナ「手紙を返していただけませんか。わたくしがアンテルム様にいただいたものです」
ティナは必死に手を伸ばして手紙を取ろうとするが、アンガスは取られまいと攻防を繰り広げているうちに、はらりと手紙が落ちて湯船に沈んだ。
アンガス「やべ」
ティナ「……わたくし、帰ります。アーちゃんは女の子には優しくしてあげてくださいね」
*
(好きな子に意地悪するなんてオレってガキくせぇところ残ってんだな)
アンガス「ごめん……」