気がついた恋心
ティナはバシアス浴場を後にして、街門広場のベンチに座る。
手紙の差出人はアンテルムのものだと確信できた。
──であれば、なぜ会った時に手紙の話をしなかったのか?
(わたくしがティム様と勘違いしたのがいけなかったんだわ、それとも──)
ティナがこのような相談が出来るのは一人しかいなかった。
*
ティナ「テレーゼ様、ご相談よろしいでしょうか」
テレーゼ「ええ、いいわよ」
アイヴァンが「身体を温めてね」とダイニングテーブルに花茶を置く。独特の甘い香りが鼻へと抜ける。
ティナ「わたくし、ずっと文通していた相手に想いを寄せておりました。そのためにエルネアに来たのです」
テレーゼ「あらロマンチック」
(この反応は少し白々しかったかしら?)
テレーゼは、その手紙の差出人がアンテルムのことだとわかっていた。夜な夜な手紙を書いていた姿を見ていたからだ。
ティナ「でも、差出人は無記名で……わたくしはその内容から勘違いをしていたのです」
テレーゼ「無記名!?おっちょこちょいね」
(アンテルム、そこ忘れるところ?)
ティナ「今は差出人がわかりました。ですが、相手の方はとりたてて手紙を話題にすることもなく。わたくしは、話のきっかけが掴めず……どのように接したらいいか悩んでおります」
テレーゼ「ティナを好きじゃなきゃ何年も文通を続けたりしないわ」
ティナ「それが、お会いしてから……わたくしを避けているように思えて……。きっと大人になったわたくしは彼の好みではなかったのかもしれません」
テレーゼ「いや、ティナはアンテル……その男の好みよ。絶対に!……取り乱したわ、失礼。ティナは可愛いから見た目がどうって話じゃないわ」
ティナ「そ、そうでしょうか……」
テレーゼ「で、肝心のティナの気持ちは?」
ティナは言葉を選ぶように、ぽつりぽつりと答える。
ティナ「はい、その方は、見た目からして手紙のような甘い言葉を口にするということは……想像つかないのですが……でも、言葉や行動の端々に優しさを感じられます。それが彼の仕事上の対応だとしても……その、もっと肌に触れていただきと思っているのです」
テレーゼ「甘い言葉!?肌に触れ……ゴホッ」
テレーゼは飲んでいた花茶を吹き出す勢いでむせた。
(アンテルムとティナに限って婚前の”そういうこと”はないはずよ、落ち着いてアタシ)
ティナ「テレーゼ様、大丈夫ですか?」
テレーゼ「……コホン……そうね、触れて欲しいと思うのは”好き”って感情で間違いないわ」
ティナ「これが恋心なのですね!」
テレーゼ「そうよ、その気持ちは大切になさい。それとプロファイリングするに、ティナの好きな人は寡黙で男気に溢れてるけど、頭の中はむっつりさんね」
ティナ「プロ……?むっつり?」
テレーゼ「とにかく接点を多く持ちなさい。そしたら、お互いに手紙のことを切り出しやすくなるでしょう?アイヴァン、ティナに料理を教えてあげて」