すべてをぶつけて
夜更けに騎士隊長の居室の扉をドンドンと叩く音が聞こえる。
アンテルムは剣を構え、慎重に扉を開けるがそこにいたのは意外な訪問者だった。
ティナ「アンテルム様、もう来なくていいとおっしゃいましたが……わたくし……どうしてもお話がしたくて……」
ティナの呼吸は乱れ、額は汗ばんでいる。
アンテルム「こんな夜更けに一人で来たのか?それに顔が赤い。……水を」
ティナ「アンテルム様、聞いてくださいっ」
部屋着の裾をぎゅっと掴まれ、足を止める。
ティナ「アンテルム様が書いた手紙を、ずっとティム様と誤解をしていてごめんなさい」
アンテルム「ティナさんはティムが好きなのだから仕方ないのだろう」
ティナはやっぱり──と思った。自分のせいで切り出すきっかけを失っていたのだと。
ティナ「いいえ……わたくし……手紙を差し出した方の言葉が、神経質そうな文字が……一語一句、愛おしいのです。アンテルム様と分かってからはアンテルム様のことで頭がいっぱいです!」
アンテルム「!!」
愛の告白とも言えるティナの言葉にアンテルムは目をみひらいた。
ティナ「わたくし、思い出しましたの。アンテルム様は小さい頃の約束を守るために騎士様になられたのですよね?アンテルム様はわたくしがお嫌いですか?大人になったのに何もできない女だとがっかりさせてしまったかもしれません……こほっ」
アンテルム「そんなことは……それより身体を休めるんだ!」
額に触れれば燃えるように熱い。小刻みに震えていることから、まだこれから熱が上がるだろうと予想された。
*
燭台の灯りは、静かに寝台の二人を照らしていた。ティナの服は汗で湿っていたため、アンテルムの部屋着を着せる。
ティナの身体の汗を拭くことは、看病の一環だと下心を持たなかったはずだが──
ティナ「この服、アンテルム様に包まれてるみたいです……いい匂い……えへへ」
熱でぼーっとしているティナだ。もう頭の中と口が直結してしまっているのだろう。アンテルムは反応してしまった下半身の熱を逃がすようにふーっと深呼吸をした。
アンテルム「話は元気になってからだ」
ティナ「はい……あの、眠るまで手を握っていただけませんか?」
アンテルム「わかった。にしても小さい手だな」
ティナは苦しそうな呼吸をしながらも気持ちよさそうに目を閉じて、すり、と手のひらに顔を擦り付けるような仕草をする。
アンテルムの手の冷たさが気持ちいのだろう。
しばらくすると小さな寝息が聞こえた。
──可愛いな。
汗で顔にはりつくティナの髪を丁寧にすきあげ、一房を手にとったアンテルムは、そこに優しい口づけを落とした。