これまでのこと
ハーブ摘みを切り上げて、泣きじゃくる私を居室に連れていく王家の人たち。
「落ち着いたら話してちょうだいね」
ヴィクトリア王妃の優しい声。
テーブルに置かれた温かいホットミルクを手に取り、口につけると甘い蜂蜜の味がゆっくり広がる。
私は覚悟をきめて重い口を開いた。
「私は女です。今まで騙してごめんなさい」
フードを取り、後ろでまとめられた髪をほどいた。
私の姿をみて驚かなかったのはアンテルムさん、アンガスさんの2人はもちろんティムさんもだった。
オスキツ国王とヴィクトリア王妃は動揺を隠せない。
「どういう事情があるのか話して欲しい」
責めるわけでもなく、ただ事実を知りたいというオスキツ国王の口調。
言葉に詰まってうまく話せないかもしれませんが、と前置きをして自分の生まれた国、両親のこと、そして今日まで身を隠して旅をしてきたことを話した。
何が悲しいのか、もはや自分ではわからないが涙は止まらず、つっかえながらも話す。
そのたびに、ヴィクトリアさんとテレーゼさんがそばについて「ゆっくりでいいのよ」と声をかけてくれる。
「今まで、騙してごめんなさい。私はすぐにでもエルネアを出ます」
全て話し終えた私は立ち上がり、国王と王妃の前で深く頭を下げる。
皆、どんな顔で私を見ているんだろう…沈黙の時間が苦しい。
「チヤちゃん、顔をあげて」沈黙を破ったのは意外にもティムさんだった。
「チヤちゃんはさ、エルネアに1年間いて危険な目にあった?」
いつもは数日、長くても十日で旅に出てしまうので一つの国に長く滞在した経験はない。エルネアにきてからは眠りは浅いものの、それは習慣のようなもので直接的な身の危険を感じることはなかった。
「いえ…」
「じゃ、追われているのもチヤちゃんの気のせいかもしれないよ」
気のせい…
私の気のせい?
ティムさんの言葉が頭をこだまする。
…その発想はなかった。