騎士になるということは
さて、今日もお金を稼がなきゃ。酒場と遺跡を往復しているとティムさんに声をかけられた。
「チヤ君、おはよう。今日も一人?」
「はい」
「森に行けばアンガスに会えるよ」
──そうなんですか?と言いかけた自分に驚いた。別に会わなくても何の支障もないはずじゃないか。私は急いで旅の資金を集めなければならないのだ。
「僕には関係ないので」努めて平静を装う。
「あれ、そんな反応?おかしいな…」
おかしいのはティムさんのほうだ。
じゃあこっちに来て、と呼ばれたのは騎兵のトーナメント表がある場所。
「へぇ…ティムさん、出場するんですね。応援しています」
「違う、こっち」ティムさんが指したところを見ると”アンガス・ブヴァール”と書かれていた。
アンガスさんが騎兵を目指している?
「アンガスがやる気になるのってすごいことなんだよ、なんでだろうね」
「僕にはわかりませんね」
「心を動かした出来事があったのか、あるいは…」
ぐううううう~~
すごいタイミングでお腹がなってしまった。
「はは、チヤ君は可愛いね。マナナサンド食べる?」
「頂いていいんですか?」
「20ビーになりまーす」にこにこと表情を崩さないティムさん。
「うっ」財布から20ビーを取り出す。
「毎度あり!僕ね、旅人にお土産を売ってみたかったんだ。夢が叶った」
「変な夢ですね」
「ヤーノ市場の人になりたかったんだ」
「なればいいのに」
「ううん、王族ってのもいろいろ大変なんだよ。職業は制限されるし、好きな人と結婚できない場合があるし…」
「そうなんですか」
王族のしがらみか…私とは無関係だな。マナナサンドを頬張り話を聞く。そしてティムさんの話は核心に近づいているようで、遠い。むずむずとした感覚が残る。
「ティムさん、ご馳走さまです。そろそろ行きますね」
「うん、またね」
*
ティムさんと別れて所用を済ました後、またトーナメント表の前に立つ。
「チヤ君?」背後からアンテルムさんの声が聞こえた。
「こんにちは」
「トーナメント表を見てるの?」
「はい」
「へぇ…アンガスにティム兄さんがエントリーか、こりゃ驚いたな」
グァバメキアの国民は徴兵が義務づけられている。さらに成績が優秀な者は軍事国家の戦士として活躍する。生まれながらにして国民が戦士であることは当たり前なのだ。
しかしエルネア王国は違う。別に騎士にならなくても生活はできるし、王族なら温室のおかげでお金に困らないはずだ。ふわふわしたティムさん、フラフラしたアンガスさんが騎士になりたいというのはどういうことだろう。動機は?この国には国民を突き動かす何かがあるのだろうか?
「僕も出場したいです、どうすればいいですか?」
騎士になることで、旅人とはまた別の景色が見えると思った。この国の魅力を知りたい。こんな感情は初めてだ。
「うーん、残念だが帰化しないと受け付けられないよ」
帰化…この国に腰を据えて暮らす。追われている身としてはハードルが高い決断だ。