【アンガス視点】欲しいもの
【アンガス視点】
ミアラさんから鍵を受け取り、居室についたアンガスは乱暴にソファへ座り、ポム酒を呷る。
暖炉の中でぱちぱちと音を立てて燃えている炎を眺めながらチヤとの出会いを思い出していた。
── オレがなぜ旅人、チヤに執着しているか?
宿屋の前で出会ったチヤは、小柄でほっそりとしていて脆く儚いガラス細工のようだった。
話しかけてみれば、自分のことを『僕』と呼ぶ。
女が性別を偽って旅をするなんてどんな事情があるのかと、単純な興味だった。
甘い言葉を囁いて、ちょっと優しくすれば自分にこびてくるだろうと。その辺の女と同じような対応してみたが、そっけない。
それどころかチヤの本心からどんどん遠ざかっていく。
そのくせ、兄貴であるアンテルムの食事の誘いや試合の応援には快諾するし、ティム兄さん相手に至っては警戒心ゼロ。オレの信用のなさを突きつける。
せめて兄貴のように騎士になれば…『騎士になる』と約束を守る男になれば彼女の本心に近づけるかと思い、一戦目を勝ち取った。チヤは応援に来なかったけど。
今、何しているんだろう。出国していないよな。
気が付けばチヤのことで頭がいっぱいだった。
毎日でも会いたいが、ぐっとこらえて探索にだって行っている。
それは、オレが強くなるため。
チヤの本心をさらけだせる相手になるため。
それなのに…あいつときたら『もう案内役は結構です』『自分の身は自分で守る』と一人で生きることを選択する。
ぜんぜん伝わってない。何も伝わってない。きっと案内ができない日は『女と会ってるんだろう』くらいに思われているに違いない。
チヤの本心は?キミにとって安らげる場所は?
この気持ちは、好きとか恋とか甘ったるいものじゃなくて、興味からはじまった『執着』だ。
オレは、生まれて初めて[心]が欲しいと思った。そして脆く儚いガラス細工を大事に、扱える男になりたいと。
気が付けばポム酒の入っていたグラスは空っぽになっていた。
背後から足音が聞こえる。
「アンガス、飲み過ぎちゃだめだよ」ティム兄さんがオレの隣に腰をかける。
「ああ」しばしの無言が続く。
「アンガスは変わったよ。もちろんいい意味でね」
ティム兄さんは、いつも優しい表情をしているが心の底では何を考えているかわからない。それに勘がよく働き、厳しい指摘もする。オレは、なぜかティム兄さんに対しては嘘をつけない。
「ちょっと気になる子がいてね」
「そうなんだね。大丈夫、アンガスなら想いが伝わる」
ティム兄さんの『大丈夫』は不思議な事に本当に大丈夫なような気がしてくる。
「そうだ、頼んでいいかな」
「僕でよければ」
「これ、チヤに渡して欲しい。オレから渡すと萎縮するからティム兄さんからと伝えてほしいんだ」噴水通りの家の鍵を差し出す。
「わかったよ。チヤ
それ以上、言葉を交わすことはなかった。
暖炉の火は二人をゆらゆらと、まるで