嵐の収穫祭
『アンガスさんのために素直になって』か。ティムさんの言葉が頭を離れない。
ティムさんに髪の毛を整えられ、騎士隊長の居室に向かったけどアンテルムさんはいなかった。私は仕方なく帰路につく。
噴水広場に差し掛かったところで夕日が沈み、今年も収穫祭を楽しめなかったことに気が付いた。
(せめて、食事だけでも…)
「あら、久しぶりね」酒場の扉を開けるとウィアラさんが笑顔で出迎える。
「ご無沙汰しています、マトラ定食をお願いします」
*
「今年はお酒に気を付けてね」目の前にマトラ定食を置き、隣の席に腰を掛けるウィアラさん。
「ねぇ、占い結果どうかしら」
「占いですか?」
「昨年は気が付かないまま倒れたみたいだけど、マトラ定食には占いを入れてるのよ。楽しみにしてる人、多いんだから」
言われた通り、パンをちぎると中に筒で包まれた紙が入っていた。
【想うだけじゃ何も変わらない】
占いまでに背中を押された気になって可笑しく思えた。
「それで、想い人はいるの?」
── アンガスさん…
「お酒を飲んでないのに顔を赤くしちゃって、可愛いわね。ふふ、頑張ってちょうだい」
ウィアラさんは私の表情を見て満足したのか、調理場に戻って行った。
「ウィアラさん、ご馳走さまです」
マトラ定食を平らげ、私は占いの紙をポケットに大事にしまい酒場を後にする。
*
自宅に入る前に女性に呼び止められた。
アンガスさんの彼女だ。
「あたし、アンガスと付き合ってないわよ…騙してごめんなさいね。さっき、アンガスがすごい形相で怒ってきたわ…あんなに感情的なアンガスは初めてよ」
これが"悪しき関係"を断ち切るお守り…『情念の炎』が効いたということなのだろうか。どんな形であれ、彼女もアンガスさんが好きだったのには変わらない。環境が少しでも違ったら私も彼女側になっていたのかと思うと、胸が苦しくなる。
「私もアンガスさんが好きなんです、だからごめんなさい」
ティムさんの言葉か、占いの効果かはわからないけど、初めて「アンガスさんが好き」だとはっきり言葉にした。
「惨めになるから謝らないでよ。遠回りしちゃってバカみたいな二人ね!アンガスの心を動かしたのはあなたなんだし、堂々としてよ。それだけ言いに来たの。あ、間違っても友達になりませんか?とかやめてね、そういうのだるいから」
一方的にまくしたてて話して彼女は去って行った。
なんだか…嵐のような一日だったな…。