魔法がとける
アンテルムさんから逃げるように駆け込んだ噴水通りの家。
たくさん走ったせいでドレスは汚れ、みすぼらしい姿が窓ガラスに映る。アンガスさんからもらった願いのバラも花びらが欠けて弱弱しい。
(なんだか魔法がとけたみたい…)
その姿が今の自分にぴったりで、滑稽に思えてくる。
ふとドアをノックする音が聞こえた。
「チヤ、いる?遅くなってごめん」アンガスさんの声だ。
アンテルムさんにキスをされているところを見られなくてよかった、なんて思っている自分がいる。それでも合わせる顔がない…会いたくない…
「ごめんなさい、調子が悪くてこのまま休ませてもらえませんか。ドレスは…綺麗にして返します」
「ドレスは気にしなくていい。今日はすぐに迎えに行けなくて本当にごめん」
*
次の朝もアンガスさんは家に来てくれたけどドアを開けることはしなかった。
その次の日も──。
「オレ…今日はトーナメントに優勝したんだ。それと…」
アンガスさんが言葉を続ける。
「兄貴も優勝した。来年は騎士隊長だ。居室を出るから最後にみんなで出かけようって父さんと母さんが言ってた。もちろんチヤも一緒にって」
このまま避け続けていてもしょうがない。部屋を出なければこの国をでることもできない。最後に「家族の思い出」を私にください。