【アンテルム視点】複雑な想い
【アンテルム視点】
『警戒心の高い旅人の顔』、探索に興味がある『無邪気な少年の顔』、神殿で見せた『美しい女の顔』。アンテルムは、チヤの”女の顔”を見たときに惚れてしまっていたんだろう。
(あなたの本当の顔がわからない…)
今は、騙されたことを含めて複雑な感情で頭を支配されていた。
「んっ…はっ」
チヤに夢中で口づけをする。
(貴方は私がこんな真似をする理由など思いつかないでしょうね)
アンテルムもそこまで酒に強いわけではない。収穫祭にせっかくだからと火酒を飲んだものの、自分がしている行為と相まって目の前がくらくらする。
「あ…アンガスさっ…ん…」
またか!!
神殿のときだってそうだ…どうして弟の名前を呼ぶのか。
口づけをやめ、こぶしにぐっと力をこめる。
──王族と旅人は結ばれない。
だが、騎士になり城下に引っ越せば王族のしがらみから解放される。
アンガスの行動に思い当たるふしがあった。
騎士を目指していること、チヤと会わない日は探索をしていること。
アンガスをその気にさせる、キミは一体…?
しばらくは騙されたフリをしておくか。
アンテルムは少しずつ冷静を取り戻す。
チヤの汗ばんだ身体を丁寧に拭き、着替えさせて毛布をかけてやる。
気が付けば窓から月明かりが漏れていた。
(そろそろ戻らないとな…)
*
──バンッ!
ドアが勢いよく開いてアンガスが駆け寄った。
「兄貴、チヤは!?」
「あぁ、私は送ってやっただけで今は大人しく寝ているよ」
ベッドに目をやるアンガス。
チヤのもとに近づき、寝息を確認したのだろう。
「兄貴は帰っていいよ。騎士の仕事もあるし外泊なんかしたことないだろ。父さんや母さんには、オレが女のところにいるとでも嘘ついておいてよ」
「……」
私は今、どんな顔で弟を見ているのだろうか。
「なに?目が覚めたら状況を説明しないといけないし、家を貸した初日に旅人が酔いつぶれて帰ってきたなんて知ったら父さんの心証が悪いだろ。うまくごまかしといて」
「ああ、わかった。あとは頼んだ」
間違いを犯すなよ──と言いかけたが、自分の行為を思い出して言葉を飲み込んだ。