オスキツ国王が口を開く。 「うむ、ティムの言う通りだな。チヤ君は国家機密を持ってるわけでもなさそうだし、グァバメキアは現在も鎖国中で、1人のためにわざわざ戦士を使って追ってくるとは考えにくいだろう」 「ずっと追われている感覚があったのは怖かっ…
ハーブ摘みを切り上げて、泣きじゃくる私を居室に連れていく王家の人たち。 「落ち着いたら話してちょうだいね」 ヴィクトリア王妃の優しい声。 テーブルに置かれた温かいホットミルクを手に取り、口につけると甘い蜂蜜の味がゆっくり広がる。 私は覚悟をき…
久しぶりの外は眩しくて眩暈がする。 アンテルムさんがもうすぐ居室を出るというので、オスキツ国王たちとハーブ摘みに出掛けることにした。 (最後の思い出を私にください) 家まで迎えに来てくれたのはヴィクトリア王妃とテレーゼ王太子。しかもできたての…
アンテルムさんから逃げるように駆け込んだ噴水通りの家。 たくさん走ったせいでドレスは汚れ、みすぼらしい姿が窓ガラスに映る。アンガスさんからもらった願いのバラも花びらが欠けて弱弱しい。 (なんだか魔法がとけたみたい…) その姿が今の自分にぴった…
【アンガス視点】 チヤに着せたドレスは似合っていてすごく綺麗だった。 エナの子コンテストなんて俗なものは放って、今すぐ抱きたいと頭の中でいっぱいだった。 ドレスを着せたばかりなのに脱がせたい。 髪を整えたのに今すぐ乱れさせたい。 オレの中で相反…
(はぁはぁ…) 闘技場から慣れないドレスを着て走るのは大変だった。ただでさえ体力がないのに呼吸が乱れる。 ── カチャリ。温室の扉に手をかけると開いた。 ここなら誰も追いかけてこないことがわかって安心する。 (早く着替えなきゃ!) ドレス上半身のホ…
アンガスさんに手をひかれ王立闘技場に入ると、すでに多くの人が席を埋めていた。 周囲の声が大きく、アンガスさんが耳元で話しかける。 「チヤ、終わったら温室で待ち合わせよう。それまで誰にも捕まらないで」 ふんわりとした香水のにおいが鼻をくすぐり鼓…
「ど、どうですか」 ドレスは絹やモフコットンの上級な生地で仕立てられ、滑らかな肌触りだった。 「さすがオレ、寸法はぴったり。すごく綺麗だ…」 じっと見つめられて気恥ずかしくなる。 「そうだな、髪の毛はオレが結ってあげよう。そこに座って」 アンガ…
今日は年に1度、太陽が登らないことから「星の日」と呼ばれている。街には幻想的な光が飛び交っていた。 (光の花みっけ) 星の日だけに咲くこの不思議な花はお守りにもなる。 「チヤ、おはよう」 「アンガスさん、おはようございます」 「ワフ虫の光がきれ…
私は朝からアンガスさんと深い森へ探索へ出かけていた。実は二人で探索するのは初めてだったが、不安はない。アンガスさんの剣さばきは先日の試合と同じように、確かなものだった。 「チヤ、先日は兄貴たちとどんな話を?」 「ティムさんが斧でトーナメント…
(ティムさんって強いんだっけ?) ティムさんに誘われ深い森へ向かったが、足を踏み入れるのは初めてで不安だった。 「少し待ってね」ティムさんは森に入ろうとしない。 しばらくすると森の獣道からアンテルムさんが出てきて、ティムさんが探索に誘った。 …
(これじゃよく見えないな…) 練兵場はアンガスさんの応援に来た女の子たちで溢れていた。 「やぁ、チヤ君」振り返るとティムさんが立っていた。 「ティムさん、こんにちは」 「アンガスの応援だね、こちらへどうぞ」 親族が応援する席に案内してくれた。私…
なんだろ…すごく安らぐ… チヤは心地よい陽だまりの中にいる気分だった。 それにエキゾチックでスパイシーな独特の香りがする。最初は苦手だったけど、いつの間にか好きになっていた香り。これっていつも近くで感じていた…アンガスさんが愛用している香水。 …
【アンテルム視点】裏切りと加虐心の続き 【アンテルム視点】 『警戒心の高い旅人の顔』、探索に興味がある『無邪気な少年の顔』、神殿で見せた『美しい女の顔』。アンテルムは、チヤの”女の顔”を見たときに惚れてしまっていたんだろう。 (あなたの本当の顔…
チヤ!アンガス!オスキツ国の王族!を連呼してたら素敵な絵が集まってきました。ありがてぇ… 描いたよ&ブログ掲載可能な方はご一報いただけますでしょうか。私が200万回くらい眺め直したいので…このページに残したいです… ※掲載を辞めたい場合、ツイートを…
『歪む』の続き 【アンテルム視点】 「ウィアラさん、二人分の代金を置いていく。ごちそうさま」 「部屋に空きがあるから泊まらせてもいいけど」 酔いつぶれた少年の背中をさするウィアラさん。 「引越すために荷物をまとめてるそうだから、このまま噴水通り…
今日は収穫祭。自然の恵みを豊穣の女神フェルタをはじめとるする神々に感謝する日。 神殿では厳かな祈りが捧げられる一方で、露店は珍しいものが販売され買い物をする人や港はマトラを釣る人でごった返している。子供たちは泥だらけになりながら宝探しに夢中…
「はい、チヤ君。噴水通りの家の鍵だよ」 ティムさんから噴水通りの家の鍵を手渡された。 「僕にですか?…どういうことでしょう」 「んーアンガスが騎士になったらこの国に残ってくれないの?」 『ねぇ、オレが騎士になったらこの国に残ってよ』アンガスさん…
【アンガス視点】 ミアラさんから鍵を受け取り、居室についたアンガスは乱暴にソファへ座り、ポム酒を呷る。 暖炉の中でぱちぱちと音を立てて燃えている炎を眺めながらチヤとの出会いを思い出していた。 ── オレがなぜ旅人、チヤに執着しているか? 宿屋の前…
【アンガス視点】 日中の居室は他の家族が出払っており、込み入った話をするには都合がよい。アンガスは、父でもありエルネア国王のオスキツと二人でソファに腰をかける。 「オレ…騎兵トーナメントで一勝したんだ」 「そのようだな、おめでとう」 サイドテー…
試合を終えたアンガスさんと二人になった。 「あのさ、オレ…騎士になるって言ったよね?」 「はい」 「あの流れだとフツー、オレの応援に行かない?」 「もしかして…今朝の不機嫌な様子は、私がアンテルムさんの試合の招待を承諾したからですか?」 「それだ…
「騎士隊に興味があるなら見に来るといい」 私はアンテルムさんの試合に招待された。 (でも、この日はアンガスさんもトーナメント初出場だったような。) 居室を出てきたアンガスさんと目が合い、アンテルムさんも気が付いた。 「アンガスも今日の試合、頑…
今日は収穫の日。待ちゆく人が畑へ向かう姿は圧巻だった。 「けほっ」 私は埃っぽさで咳き込む。 喘息になるとしばらく動けなくなるのでどこか避難できるところを探さなければならない。 酒場は畑仕事が終わった人たちが集まるから…そうだ! (ここなら大丈…
ウィアラさんのお使いを兼ねて居室に行く機会が増えた。 「ハーブを取りに行くが一緒にどうだ?」 ちょうどアンテルムさんが部屋着を脱いで鎧に着替えるところだった。 「ひぁいっ、行きます」 男性の鍛えられた胸板が目に入ってしまい、声がうわずってしま…
「はい、パロスポロスの花だよ」 アンガスさんからドサリドサリ島原産の色鮮やかで豪華な花が差し出される。 「あれ?『ドサリドサリ諸島』は外国人を嫌っている閉鎖的な島なのに、よく交流を持てましたね」 「お、よく気が付いたね。実は先代がね…」 温室で…
宿屋までの帰路をアンガスさんと歩いていた。 「僕がいつから女だと気が付いていたんですか」 「初めて会った日からだよ、女の子って匂いでわかるんだよねー」 得意げに話すアンガスさん。まさか初対面で女だと気が付くとは…その特技は騎士になる上で役に立…
「!」 アンガスさんに押し倒されている。 (あ、フード!!) 気がついたときにはもう遅かった。 「やっぱり女の子だ」 頭の上で両手を押さえつけられ、アンガスさんのもうひとつの手は私の髪に触れる。 「性別を偽って、綺麗な髪を隠すなんてもったいない…
夜のニヴの丘は、風が気持ちよく静寂につつまれている。だが向こうに見える岩の表情はどこか険しくみえた。 エルネアでは、ある程度の資金が貯まるまで滞在することを決めて、今日は名所を回った。 (その国に愛着を持つと離れるのが辛くなる…) これまでは…
さて、今日もお金を稼がなきゃ。酒場と遺跡を往復しているとティムさんに声をかけられた。 「チヤ君、おはよう。今日も一人?」 「はい」 「森に行けばアンガスに会えるよ」 ──そうなんですか?と言いかけた自分に驚いた。別に会わなくても何の支障もないは…
「あれ…チヤ君、今日は一人?」 今日もウィアラさんにお使いを頼まれ、城の船着き場を通りかかるとアンテルムさんに呼び止められた。 「あーキミが噂の旅人君だね」 そして隣にいるのはアンテルムさんのお兄さんティムさん。繊細なムードで身にまとう空気が…