約束
夕食を終えて、アンテルムに宿まで送ってもらった。
終始、アンテルムの顔が苦しそうで何か怒らせてしまったのだろうか?と考え込むが、答えはわからないまま──。
『今日で最後だ』とアンテルムの声が頭の中をこだまする。
(どうして……)
ベッドに身を投げ出すように横になると、お酒のせいか瞼が重たくなってゆく。
ガラス戸を開けると、そこは暖かい光が差し込むサンルームだった。
両脇には眩しいくらいの鮮やかな花が咲き乱れ、幼いティナは軽やかな靴音を響かせていた。その手にはお気に入りの絵本を抱えて──。
(温室?)
これは夢だ。
──私は幼い頃の夢を見ているのだわ……。
ひときわ甘い香りがするところで、ティナはぱっと立ち止まり笑顔で振り返った。
???「待って!走ったら危ないよ」
暖かい光で顔はよく見えないが、自分より少し年上の男の子が追いかけてくる。
ティナ「この絵本を読んでくださる?」
???「うん」
その絵本はありきたりな、騎士がお姫様を迎えに行くハッピーエンドの物語だった。
ティナ「騎士様ってかっこいいのですね」
???「そうだね、憧れの職業だ」
ティナ「わたくしはお姫様になりたいな」
花壇に腰をかけて小さい足をパタパタと揺らすティナ。
アンテルム「キミはお姫様だよ、ぼくは騎士になって迎えに行くから。──それがぼくの夢!」
それはまだ幼さのある声で、けれど落ち着いた、優しい響きを持つ声でもあった。
ティナ「うん!王子様で騎士様なんて素敵!絶対に迎えに来てね、約束だよ」
アンテルムの夢はティナの夢でもあることに気づく。
──わたくし、小さい頃にアンテルム様と約束をしたのですね。