通い妻の休日
アンテルムが騎士隊長になってから初めての休日。いつも通り、居室でティナと一緒に食事をしていたところにアンテルムが口を開く。
アンテルム「ティナさんは、エルネアでやりたいことはないのか?」
ティナは急にお前は暇なのか/生きる目的はないのかと突きつけられた気がして、食事をする手が止まった。
ティナ「……わたくし、何もできなくて」
アンテルム「ならば今日は休日だ。一緒にでかけないか?」
ティナ「えっ」
アンテルム「ティナさんが嫌でなければ釣りにでも」
ティナ「嬉しいですっ」
*
季節はすっかり春。森の川辺は太陽の暖かな光が水面に反射して、無数の光の粒子が飛び交う。
ティナ「ザワムシ……気持ち悪いです」
アンテルム「餌は私がつけよう。……よし、これで待っていれば魚が釣れる」
ティナ「はいっ」
横並びに釣りをしているアンテルムとティナの後ろ姿を、遠くから見守る二人の影。
アンガス「あれで恋人同士じゃないの?」
ティム「まぁまぁ初々しくていいじゃないですか」
*
騎士隊長になってから初めての休日。春の気候もあいまって、リラックスしたアンテルムがぽつりぽつりと口を開いた。
アンテルム「私は夢があるんだ。父に騎士の腕を認められ、仕事で外国にも行った」
ティナは、はっとした。
(やはり手紙の外国の話はアンテルム様だったのね)
アンテルム「騎士隊長になることも叶えた。そして今年は龍騎士にもなりたい」
ティナ「アンテルム様の夢、応援したいです」
アンテルム「ありがとう。だが、あとひとつの夢は一人では叶えら──」
──ぴちゃり。
垂らした釣り糸の先には波紋が広がり魚影が見える。
アンテルム「かかってるよ、ティナさん」
ティナ「あ!」
ティナが勢いよく立ち上がり、足を滑らす。
アンテルム「あぶない!」
ティナ「きゃっ」
そのまま川の浅いところで、二人は尻もちをつく形になった。
ティナ「アンテルム様、ごめんなさい……」
アンテルム「私は腰布が濡れただけで、問題ない。それよりティナさんの服を乾かさなければ。一旦、部屋に戻ろう」