初めてをあげる
ティナ「アイヴァン様、こうでしょうか?」
アイヴァン「ティナさんはセンスあるね、とても美味しそうだ」
ティナは出来上がったハニークッキーを味見するとおいしくできたと笑顔になった。
アイヴァン「好きな人に気持ちが伝わるといいね」
ティナ「はいっ!」
*
ティナ「アンテルム様ーっ!」
ヤーノ市場でアンテルムの姿を見かけたティナは、彼女なりの大きな声で彼を呼び止めた。少し前までは人前で大声を出すなど、はしたない行為だと思っていたが、恋心に気がついたティナは大胆になっていた。
アンテルム「ティナさん?」
人混みをかき分けるように、ぴょこんと目の前に現れたティナの手にはクッキーが差し出されていた。
ティナ「これまでのお礼にクッキーを焼いてきました。よかったら召し上がっていただけませんか?」
「うそ、アンテルムにこんな可愛い彼女できたのかよ」「え、アンテルム様の彼女!?」市場がいつも以上にザワザワとしたが二人の耳には入らない。
アンテルム「お礼なんて」
ティナ「わたくしの気持ちなのです!」
今日のティナさんはなんだか積極的だ、とアンテルムは思った。
アンテルム「ティナさんの気持ち?では、ありがたく。今ここで一つ頂いてもいいのかな?」
ティナ「はいっ」
わくわく!といった様子が漏れているティナの視線を浴びて、アンテルムは戸惑った。
アンテルム「その……じっと見られると食べにくい……」
ティナ「でも、初めての手作り料理なんです。アンテルム様の反応を見たくて」
アンテルム「ティナさんの初めてを私が?……っ!いただこう」
ティナにじっと見つめられたまま、クッキーを口に入れてその味を噛みしめる。
アンテルム「甘さがちょうど良くて美味しい」
ティナは初めて見るアンテルムのふんわりと包み込むような笑顔に胸がいっぱいになった。
ティナ「よかった!アンテルム様が嫌でなければ、明日も料理をお持ちしてもよいでしょうか?」
アンテルム「私は明日から居室を出るんだ」
ティナ「え……遠征でもされるのでしょうか?」
アンテルム「いや、隣の騎士隊長の居室に引越すだけなんだが」
ティナ「!!騎士隊長になられるんですね、おめでとうございます」
アンテルム「ずっと夢だったんだ」
──夢。
ティナは、心の中がざわついた。それを打ち消すように明るくふるまう。
ティナ「夢を叶えるなんてアンテルム様はすごいです」
アンテルム「だから、台所ならうちのを使うといい。酒場じゃ落ち着かないだろう」
ティナ「は、はいっ」
周囲((夫婦かよ!))
*
食材を詰めたバスケットを片手に、ティナは騎士隊長の居室をノックする。
ティナ「アンテルム様、あけましておめでとうございます」
アンガス「あけましておめでとう。さっそくですまないが、これから新年の挨拶なんだ。だから、これを渡しておこう。ティナさんのペースで来てくれればいい」
アンテルムはティナに合鍵を渡す。
ティナ「わかりました。今日は何時に戻られますか?」
アンテルム「朝3刻だ」
ティナ「では昼食を用意して待ってますね。いってらっしゃい、アンテルム様」
アンテルム「ああ、行ってくる」
そのやりとりを玉座の間で見ていたアンガスがティムに聞く。
アンガス「あの二人、いつの間にか結婚したんだっけ?」
ティム「会話が新婚夫婦のそれだね……」